Column: 音律1
音律(おんりつ temperament)とは、ある音楽で使う音高をいいます。音階の項でもおなじような説明をしましたが、音階は音律で決めた音からさらにいくつかの音を選んだものです。また、同じドレミファソラシドの音階でも、音律が異なれば、個々の音の音高は微妙に異なります。
私は昔、西洋音楽で使われる12音は適当に選んだもので、文化が違えば1オクターブを11や10に分ける音楽もあるんだろうと思っていました。しかし、実はドレミファソラシの7音も1オクターブ12音も非常に科学的に決めたのでありました。
音の高さが周波数で決まる、という事はご存じかと思います。鼓膜が1秒間に440回ふるえる音が、440Hzのラ(時報の高い方の音)です。周波数が高くなれば音も高くなります。
音の性質として、ある音にその周波数が整数倍(2倍、3倍・・・)の音を重ねるとよく響く、というのがあります。
なぜ整数倍なのかは詳しく説明すると物理の話になるので、下図で理解した気になりましょう。
周波数が2倍の音は非常によくとけ込みます。そのため、これを「同じ性質でひとかたまり高い音」である、と考えます。ドの周波数2倍の音は高いドである、と考えたわけです。
(つまり周波数比1倍?2倍までの間をひとかたまりとして、その繰り返しとした。世界には周波数比1倍?4倍、つまり2オクターブをひとかたまりとする音楽もある。)
もちろんチューナなどない時代の話ですが、同じ素材・同じ張力の弦の長さを半分にすれば、周波数が2倍になります。この考えで2倍、4倍、8倍と取っていけば無限に音が取れますが、これだけでは音楽を奏でるにはあまりに音が少なすぎます。
では、次によく響く、周波数が3倍の音を考えてみましょう。弦の長さを3分の1にすれば周波数が3倍になります。この考えで、3倍、9倍、27倍・・・と取っていくわけです。
ただ、これではどんどん音が高くなってしまうので、1オクターブの中に納めたいところです。
前述したように周波数2倍で1オクターブ変わりますので、周波数が半分になれば1オクターブ低い音となります。これで先ほどの3倍、9倍、27倍・・・の音を1オクターブ内(つまり1倍?2倍)の間に納めてみましょう。
3倍の音は1オクターブ下げて3/2倍、9倍の音は3オクターブ下げて9/8倍、27倍の音は4オクターブ下げて27/16倍・・・という風になります。全然割り切れませんね。これは当然で、2も3も素数(1とその数でしか割りきれない数)なので、3を何回掛けたって絶対に2で割り切れることはありません。よって、どんどん1オクターブ内に音を増やしていくことができます。
が。実際には11回でやめています。なぜなら12回目に取れる音ははじめの音に非常に近いからです(それでも聴き比べれば違いがわかる程度ではありますが)。これにより1オクターブ12音が決定したわけです。
では、こうして取った音を音高順に並べてみましょう。
ここではCを基準の音としています。
隣り合う音(半音)との周波数比にも注目してください。
音名 | C | Cis | D | Dis | E | Eis | Fis | G | Gis | A | Ais | H | C | |||||||||||||
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Cとの周波数比 | 1 | 37 ― 211 | 32 ― 23 | 39 ― 214 | 34 ― 26 | 311 ― 217 | 36 ― 29 | 31 ― 21 | 38 ― 212 | 33 ― 24 | 310 ― 215 | 35 ― 27 | 2 | |||||||||||||
1.00 | 1.07 | 1.13 | 1.20 | 1.27 | 1.35 | 1.42 | 1.50 | 1.60 | 1.69 | 1.80 | 1.90 | 2.00 | ||||||||||||||
隣りの音との周波数比 | 37 ― 211 | 35 ― 28 | 37 ― 211 | 35 ― 28 | 37 ― 211 | 35 ― 28 | 35 ― 28 | 37 ― 211 | 35 ― 28 | 37 ― 211 | 35 ― 28 | 35 ― 28 | ||||||||||||||
1.07 | 1.05 | 1.07 | 1.05 | 1.07 | 1.05 | 1.05 | 1.07 | 1.05 | 1.07 | 1.05 | 1.05 |
隣り合う音との周波数比には、2種類あることがわかります(ちなみに12回目に取れる音(His)と元の音(C)との周波数比は312/218≒1.01。やはりずいぶん小さいですね。)。現在、一般的とされている平均律ではすべての半音が同じ間隔なので、ちょっと響きが異なります。
ところで、3倍づつ取っていくと5回取った時点で、ドレミソラシ、つまりファ以外のハ長調音階がそろいます。ファ(正確にはミ♯)は10回目でようやく出てきますが、実は元の音の1/3の周波数の音がファになります。これでハ長調音階がそろった、ということになります。ちょっと強引ですが。
ちなみに、3倍づつ4回取るとドレミソラとなり、いわゆる「ヨナ抜き」音階になります。中国・日本でも周波数3倍で取る音律を使っていたので、理に適っていますね。