Chapter.7: 和声の基本
前項で見た和音は、それぞれどのように使われているのでしょうか。それを知るためにはまず「和音の機能」を知らなくてはなりません。
和音の機能
バロックから後期ロマン派までの和声(和音のつながり)理論を「機能和声(きのうわせい functional harmony)」といいます。これは、和音に「機能」を持たせて、その機能にしたがって和音をつなげていくというものです。
何がなにやらですね。具体的にいきましょう。
和音の機能はT(トニック tonic)、D(ドミナント dominant)、S(サブドミナント subdominant)に分かれます。SをさらにSとD2(第2ドミナント)に分ける場合もあります。
Tは基盤となるもので、大小さまざまなフレーズ(楽節)の始まりと終わりによく表れます。また、T・D・S・D2全てへつながる基点となります。大抵「落ち着いたー」と感じます。
Dは強くTに行きたがります。このあとにはTしかつながりません(例外あり)。
SもTに行きたがりますが、Dほどではなく曖昧な感じです。TよりもむしろDにつなげることでD→Tの流れを強いものにします。
D2はDに対するDです。つまり、強くDに行きたがります。このあとにはDしかつながりません。
カデンツ
これらの機能のつながり方は以下のようになります。
T・D・Sの場合
- T-D-T (K1)
- T-S-T (K2)
- T-S-D-T (K3)
T・D・S・D2の場合
- 上記に加えて…
- T-D2-D-T
- T-S-D2-D-T
わずか3もしくは5種類です。シンプルです。
この和音の機能のつながりをカデンツ(独kadenz)、ケーデンス(英cadense)といいます。上記のK1、K2、K3はそれぞれそのカデンツの型を示す記号ですが、はっきり言って使いませんので忘れましょう。
カデンツはすべてTで始まりTで終わっています。そのため、「T-D-T-S-T-S-D-T」のように、あるカデンツの終わりから次のカデンツの始まりへとつなげる事が出来ます。
和音の根音と機能
さて、ではそれぞれの和音がどんな機能を持つか見ていきましょう。
Tは基盤となるものでした。音階の項では主音(第1音)に同じような説明がありましたね。ということで主音を根音とした和音=Iの和音(主和音とも言う)がTの代表格です。
Dはどうでしょう。実はドミナント(dominant)は日本語では「属」と訳されます。つまり属音(第5音)を根音とした和音=Vの和音(属和音とも言う)がDの代表格です。
SもDの類推でわかります。サブドミナント(subdominant)は「下属」と訳されます。つまり下属音(第4音)を根音とした和音=IVの和音(下属和音とも言う)がSの代表格です。
D2はどうでしょう。Dに対するDだから、属音の5度上、下中音(第2音)を根音とした和音=IIの和音がD2の代表格です。
あと、あまっているのはIIIの和音、VIIの和音、VIIの和音です。
VIの和音は主音と中音を含んでいるので、Iの和音に似ています。そのためTとして使われます。
VIIの和音は導音と下中音と下属音でできています。これは、属音を根音とした7の和音と似ています。そのためこの和音の根音を省略している、とみなしDとして使います。表記もVIIではなくV7(?には斜線を引く。斜線は根音省略を示す)となります。
IIIの和音は中音と属音があってIの和音に似ているけど主音がないし、導音があるからD?・・・かわいそうですが、この和音には機能があてられていません。なんとか使いようもありそうですが。
なお、IIは下中音と下属音を含んでおり、上記のようにD2としてDにつながるので、IVと同様Sと見る場合もあります。
表にまとめておきます。
和音 | I | II | III | IV | V | VI | VII |
---|---|---|---|---|---|---|---|
機能 | T | S(D2) | - | S | D | T | D |
機能 | 和音 |
---|---|
T | I・VI/td> |
S | IV |
D2 | II |
D | V・VII |
ドミナント進行
機能和声では、D→T、D2→Dに見るように根音が5度下がる進行が基本となっています。これをD進行(ドミナントしんこうdominant motion)と呼びます。
実はこれを応用するとV7の根音省略形ではない本来のIIの和音や、IIIの和音が現れます。次に示すのはIから順にD進行を続けたものです。
I-IV-VII-III-VI-II-V-I
短調の場合
ここまでの話は長調の場合について話してきました。短調の場合もほぼ同じなのですが、自然短音階では第7音が導音ではありませんでした。そのためこのままでは属和音としての性質がなくなります。そのためDにおいてのみ第7音を半音上げ、導音として使います(これが和声的短音階です)。Vの和音と、V7の根音省略形として使うIIの和音がこれに該当します。