KLAVINS PIANOというピアノがある。
いや、ピアノと呼んでいいのか迷ってしまう楽器だ。
弦は地面に対して垂直に張られ、鍵盤は地上3mくらいのところにあって、演奏者は階段をのぼって(!)、楽器にたどり着くのだ。
もちろん、単に大きいピアノを作りたかったわけではなくて、現行のピアノの問題点 - 低弦の張力の弱さや、響板が上向きである点など - を解決したピアノとして作られた。
製作者のサイト(下記)で、ブゾーニ編のバッハの「シャコンヌ」の演奏が聴けるが、中低音が非常にクリアで、普通のピアノとはかなり違う音色になっている。
http://www.klavins-pianos.com/
↑のModel 370
実際、この演奏を聴いて、普通のピアノとどっちがいいかと言問われれば、私は普通のピアノを選ぶだろう。だが、それは単に「慣れ」と、曲との相性によるものだと思う。
ヴァイオリンですら、登場時は(ヴィオールと比べ)「音が大きいだけで倍音が少ない」と酷評されていたが、いまや最も使用頻度の高い楽器のひとつだ。
また、古楽の曲が現代の楽器に適さず、現代の曲が古楽器に適さないように、ある楽器のために書かれた曲は、普通他の楽器で効果的に響かない(例外もある)。
KLAVINS PIANOはピアノの名を冠しているが、ピアノとはかなり異なる楽器である。様々な倍音を含む低音と、シャープでクリアな低音。どちらがいいというのではなく、それぞれの楽器に適した楽曲が、適した演奏様式で、先入観のない聴衆に聴かれれば、どちらも素晴らしい音楽となるだろう。
ところで、いわゆるクラシックで使用される楽器は、細かい部分を除いて改良の余地がないと思われている。しかし、ピアノでもここまで出来るのだから、もっと新しい楽器の製作を試みてもいいんじゃないだろうか。かつてアドルフ・サックス氏が、サクソフォン族・サクソルン族をつくりあげたように、スタンダードになりうる楽器をつくる余地はあるはずだ。
ちなみに、未完成の楽器ともいわれる、ヴィオラには、かなり特殊なかたちのものもあります(Hiroshi Iizuka氏の作、詳細不明)。楽器が大きいため、豊かな中低音が出る上、くぼみのために、左手の自由度が高いそうな。
↓は、このヴィオラの使用者のScott Slapin氏のサイト。演奏も聴けます(自作のNocturneはなかなかいい曲)。