名古屋に用事があったので、ついでに名古屋市美術館に寄って『「版」の誘惑展』に行ってきました。
美術展に行って「お、この作家/作品いいな」と思ってもすぐ忘れちゃうので、特に気になったのをいくつかメモしときます。
設楽知昭「鏡ヨリモノタイプ(手と目/頭部・胸)」(1989)
楕円の鏡に特殊なインク(パンフには「カーボン(炭素)をリンシード(亜麻仁油)で溶いた絵具」、とある)と、特殊な印刷法(同じく「雁皮紙を載せて、さらに和紙を裏打ちして、それを鏡から引き剥がす」)で制作された、一点もの(モノグラフ)の版画。
通常の版画技法・絵画技法では出なさそうな、インクの筆致がおもしろい。
10点あるが、いずれも同じ鏡(これも展示されていた)を使い、異なる図像を描いて(?)いる。
河原温「百万年?未来」(1982)
ハードカバーに装丁された数冊の本。背には「ONE MILLION YEARS」の文字。
中は作家自身がタイプし、コピーした西暦年号がびっしり百万年分(たぶん)。
「928653AD」なんてのを見て、絶対存在しないだろう未来に思いを馳せるのは楽しい。
デイヴィッド・ホックニー「6つのグリム童話のための挿絵」(1969)
タイトルのとおり、本の挿絵。エッチングとアクアチント。
なんか好きな絵。文章と合わさることで両者がより引き立つ、挿絵の鑑。
藤本由紀夫「PRINTED EYE」(1988)
机に置かれたファインダー(いやどうみてもカメラのフラッシュなんですが)を覗くと、なんか文字らしきものが見える。で、横にあるスイッチ(いやどうみても発光スイッチなんですが)を押すと、覗いてるところでフラッシュが発光して、さきほど見えた文字が視界に浮かんでくるという恐ろしい装置。
展示の締めくくりに来場者に「印刷」していくというのは、なかなか粋な計らいですね。
あと今回、パンフレットがかなり凝ってた。普通、美術展のパンフって、1枚っぺらか2つ折のペラペラの色紙に展示作品リストが載ってるだけ、というのが多いけど(別にそれで十分なんですが)、この展覧会では、ほぼA5版で全26P中綴じのずいぶんしっかりしたものをくれた。
中身も、簡単な見どころ紹介と、割と細かい解説に分かれてて読みやすい。趣向としては、よくある子供むけのガイドに近いけど、細かい解説がついてるとだいぶよいですね。
いま書いてて思ったんだけど、美術作品の典拠ってどうやって示すんだろ。作家名・作品名・作成年でいいのかな。
でも、それを見た人はどうやってアクセスするんだろうか。作品集や展覧会図録が出版されててそれに載ってることがわかれば、それを引けばいいけど、今回みたいに展覧会図録が作られない場合もあることだし、一度も出版物に載ってないものってかなりの数あるんじゃないか?
それでもまだ、美術館蔵のものは、その所在を示せばなんらかのアクセスはできるだろうけど、個人蔵のやつはどうするんだろ。でも、美術館はその個人蔵の作品を借りてきてるわけだから、なにかしら作品の所蔵情報は持ってるんだろうな。
あ、ちなみに上に挙げたものでは設楽氏・藤本氏の作品が個人・作家蔵、河原氏・ホックニー氏の作品が名古屋市美術館蔵だそうですよ。