作曲の「教科書」

日本で作曲を学ぶとなれば、ほとんどの場合機能和声を学ぶこととなる。

機能和声はドイツを中心に発展した理論で、ある調におけるあらゆる和音をその機能、すなわちトニック(T)、ドミナント(D)、サブドミナント(S)にわけ、単純な3種のカデンツ、T-D-T、T-S-D-T、T-S-Tの組み合わせで、和音を連結していく、という考えだ。

私は、これが世界中で受け入れられている理論で、この理論以前は、天才たちが感覚のみで作曲を行っていたものかと思っていた。

しかし、どうやらフランスなどでは、機能和声ではなく、通奏低音(数字付き低音)を学ぶことで作曲の勉強をするらしい。そして、機能和声理論以前の作曲家たちも、同じように学んできたようだ。

通奏低音をどのように学ぶのか、私にはちょっとイメージできない。なにより資料がないのだ。

日本はドイツ式の音楽教育が輸入され、ほぼ一辺倒で現在に至っている。そのため、和声といえば、機能和声しか本がないのだ。通奏低音に関する本もなくはないが、とても利用されているとはいいがたい。

さらに、機能和声に関しても、情報量が圧倒的に少ない。島岡譲氏の「総合和声」(高価)、「和声 - 理論と実習」(さらに高価)以外に本がほとんどないのだ。

音楽は自然科学や論理学とは違うのだから、理論化するにしても、多数の方法があるはずだ。実際、海外をみれば、多数の理論書がある。島岡氏の和声は、非常によく整理されていて、優れている面も大きいと思うが、こと創作(作曲)に関しては、この理論を絶対視することは制限になりかねない(これは著者の意図ともはずれるだろう)。よって、通奏低音によるものを含む、多様な理論が広く受け入れられ、資料も入りやすくなれば、作曲を学ぶことはより楽しくなるだろうと思う。