カストラートとカウンターテナー

最近、久しぶりに映画「カストラート」を見た。

ご存じない方もいるかと思うが、カストラートとは変声期前の男子を去勢することにより、変声を回避し、高音域まで発声可能となった(させられた)歌手の事である。

この映画、昔見た時から好きで、DVDがレンタルショップに並ぶのを待っていたのだが、どこ行っても見当たらないので、我慢ならず数ヶ月ぶりにVHSを借りてきた(笑)。

作品は、もっとも有名なカストラート「ファリネリ」の生涯を描いたもので、映像・衣装の壮麗さと、歌唱シーンのすばらしさは特筆すべきものである。この映画について詳しくは次の機会に譲るとして、音楽について述べたい。

当然ながら、現在カストラートは存在しないため、この映画では声の特性が似たソプラノ歌手とカウンターテナー歌手の歌声を合成・調整した音が使われているらしい(Farinelli、il Castrato (Original Motion Picture Soundtrack) [Import from France]※映画のサウンドトラック)。これが見事なもので、不自然さは全くと言っていいほどない。少なくとも映画を見ている時は、俳優の名演も相まって、自然に感動してしまう。

しかし、この歌声はカストラートの声というより、高音の出るカウンターテナー、といった趣だ。唯一残っている本物のカストラートの録音(Moreschi - The Last Castrato)を聴く限りでは、むしろ「太めのおばちゃんの声」に近い印象を受ける。もっともこの録音は歌手の晩年に録られたもので、録音状態も悪く、どこまで「カストラートの歌声」として認識してよいかは疑問が残る。

とはいえ、資料的価値はともかく私はこの「合成カストラート」の声が大好きだ。おかげでカウンターテナーも好きになり、ジェラール・レーヌ氏の演奏会でペルゴレージの「サルヴェ・レジナ」という名曲にも出会えた。

で、NMLでカウンター・テナーの録音を探していたのだが、Matthew White という歌手にとても惹かれた。見た目はアメリカの学園ドラマにでてきそうな風貌だが(笑)、歌声は素晴らしい。女性的でも男性的でもなく「カウンターテナー的」な声質と、丁寧でキレのある歌い方に好感を感じる。

White氏の録音をいろいろ聴いていると、どうも映画「カストラート」の合成音声によく似てるのだ、という事に気づいた。どうりで好きなはずやわ(笑)。

このWhite氏、まだあまり有名ではないみたいだが、極東の地で密かに応援してるから頑張って!!