図書館と映像・音楽資料

公共図書館や大学図書館にAV資料コーナーというのがたいてい設置されているのをご存じだろうか。そこでは、図書館が所蔵する音楽・映像資料(以下、AV資料)、平たく言えばCDやDVDを鑑賞できる(「なぜか」貸し出しはできない場合がほとんど)。

しかし、多くの図書館ではAV資料の所蔵があまりにも貧弱である。芸術分野の専門図書館ならまだしも、一般の公共図書館や大学図書館では、本とは比べ物にならないほど資料数が少ない。

その要因として以下のものが考えられる。

1.図書館と民間のレンタル業との住み分け

AV資料は、本とは異なり、図書館で大量に蓄積・公開・貸与する伝統がないこと、一方で、民間企業が有償で貸与する伝統があること、が挙げられる。現在の状況で、図書館がAV資料を充実させるため、最新のCDやDVDを大量に所蔵・公開・貸与などを行えば、レコード会社やレンタル事業会社などから大きな反発が起きるであろうことは想像に難くない。

2.メディアの寿命

VHSやLPなどのアナログメディアの劣化は、無視できるレベルではないし、CDやDVDのようなデジタルメディアでも、寿命は100年未満といわれる。保存状態がよければ数百年単位で保存可能な本とは状況が異なる。

(メディアの寿命としては社会的な面もある。つまり、新しいメディアの登場で、それまでのメディアの利用が非常に少なくなってしまうのだ。これは図書館が所蔵すべき理由の一つでもある。LDでしか発売されなかった作品など、一般には入手・閲覧が難しいだろうから。)

3.複製の容易さ

現在では新しい音楽・映像資料のほとんどがデジタルメディアで提供されるため、複製が容易となり、貸出しにくいという点もある。民間のレンタル業は見て見ぬふりだが、本の複写もたびたび問題となる図書館では難しいだろう。

図書館がAV資料を所蔵する意義

それでも、図書館がAV資料を所蔵するのには大きな意味がある。

DVDの登場で、古い映画、マイナーな映画はDVD化されることなく、姿を消しつつある。また、DVD化されたところで、1年〜数年で絶版となり、手に入らない場合も多い(こうした状況は本でも同じ)。

本の場合、こうした場合にはどこかの図書館から取り寄せるか、最後には国立国会図書館で閲覧か複写依頼をすれば9割以上の本は読めるだろう(自費出版や同人誌はまた別)。しかし、AV資料は所蔵が少なく、網羅的に収集している館もない。また、館外への貸し出しや相互貸借も行っていなかったりと、状況は圧倒的に悪い。

もちろん、民間のレンタル業の利益を侵害するのはよろしくないので、1タイトルを複数持たない(本で言う複本を持たない)、発売後一定期間を超えるまでは提供しない、あるいは貸出しない、などの措置は必要となるだろうが、それでもアーカイブとしての役割は十分果たせるだろう。

過去の隠れた名作・迷作が、完全に消えてしまわないうちに、収集をはじめなければならない。

ちなみに、過去にも書いたが、レンタルビデオ店の分類はひどすぎる。実際に本格的なAV資料の提供を行うなら、分類や検索の方法も新しく考えねばならない。もっとも、芸術分野の専門図書館ではすでに行っているのかもしれないが。

本においても、いまだに漫画などは図書館での所蔵は少ない。このことについては、また日を改めて。